脳磁図とは
脳の活動に伴って発生している微弱な磁場をとらえることで、脳の電気現象をあきらかにする計測のことです。
脳の働きはいろいろな情報を伝達、統合をすることですが、この働きの一部は、神経細胞同士の接点(シナプス)に発生する電気現象(シナプス電位)によって担われています。個々のシナプス電位は微弱なものですが、生体の中では多数のシナプスが共同して作業を行っており、一定の条件のもとでは、機械で計測できる大きさのものとなっています。
しかし、従来から行われてきている脳波のような計測法では、電気を通しにくい頭蓋骨などの外側におかれた電極を用いての計測になるために、信号が小さく、また、場所によって伝わり方に差が生じてしまうこととなり、発生部位の状態の推定が困難です。
一方、電気現象に伴って発生している磁場は、発生部位と記録部位の中間の物質によって、信号が減弱したり、ひずんだりすることがなく、発生部位の状態を忠実にあらわすことができます。磁場信号が非常に微弱であるために、これまでは計測が困難でしたが、最近の磁場の計測技術の進歩により、脳活動の推定が現実的なものとなってきています。
最近では、てんかんの原因となっている神経細胞の異常興奮の発生場所の推定や、感覚や運動といった重要な機能のある場所を脳外科の手術前に推定するのに用いられています。
検査にあたって
脳磁図計測では、脳より自然に発生している磁場を計測しますので、計測そのものは生体に何ら影響を加えません。計測のために、他の磁気を遮断するための工夫をした六畳程度の部屋(磁気シールド室)に入って、ヘルメット型のお椀をふせた形のセンサー部の中に頭をすっぽりといれて頂くことで、計測が始まります。センサーは、大きく丈夫な魔法瓶の中に液体ヘリウムによって冷やされていますが、頭部に直接ふれることはありません。このセンサーが、脳の発生する弱い磁場を計測します。
繊細な計測機器が金属などの持つ磁場の為に悪影響をうけることを予防するため、磁気シールド室に入る際に金属物などをはずして頂いたり、着替えていただくことがあります。当日は金属製の装身具などをなるべく着けてこられないようにお願いします。また、お化粧の一部や、歯科材料や外科材料など体内外の金属が記録に際しノイズになることがあります。心配な方は主治医にご相談ください。
計測された信号が脳のどこから発生しているのかを調べるために必要な頭部のMRI検査を、脳磁図計測の前後、あるいは別の日に行うことがあります。これは病院で通常行われているMRI検査と同じものです。
脳磁図の検査後に特に注意して頂くことはありません。
脳磁図をさらに学ぶには
Clinical Applications of Magnetoencephalography
監修:
九州大学大学院医学研究院 脳研臨床神経生理学 飛松 省三先生、
自然科学研究機構 生理学研究所 総合生理研究系 柿木 隆介先生
本書ではMEG(脳磁図)の基礎だけではなく、てんかん、精神疾患、神経障害への臨床応用に関する最新の知見について記載されています。神経内科医、脳神経外科医、小児科医、精神科医を対象にし、初心者にも非常に分かりやすくMEGが説明されています。